第4話 そっちか
中小零細企業が加入している商工団体の正副会長広域会議というのがあり、私は今その会場に来ている。
階段を昇っていくと、私と同じ副会長の牛岡則夫さんと、他地域の会長で元県議の濱田康則さんが、喫煙スペースで煙草を吸っていた。
「こんにちは」と、挨拶すると、
「シュー、久しぶりだなー」と、ハマさんがいつものだみ声で答えた。
濱田康則さんとは県議時代に選挙で知り合い、当時から私のことをシューと呼ぶ。私もそのころから濱田康則さんをハマさんと呼ばせていただいている。
「あれ、ハマさん煙草やめられたたんじゃなかった?」と聞くと
「まー、やめる時もあるし、吸うときもある」と、よく意味の分からない返事が返ってきた。
「ところでシュー、足は大丈夫か」と、ハマさんに聞かれ、
「いやー、ダメですねー」と、私は右足を動かしながら答えた。
2年前(正確には2年3か月前)、工事現場の坂の上から重機と共に転げ落ち、右足を挟まれ骨折。労災事故ということで新聞でも報道されたため、無駄に広報されてしまった。
「新聞に載ったからさー、死んだんじゃねーかって思ったよ」とハマさん。
「いやー、転げ落ちた瞬間、自分でも死んだと思いましたよ」と私。
「で、トモちゃんは元気か」
お互いにお互いの奥さんとも親しくお付き合いをさせて頂いているので、ハマさんは私の妻をトモちゃんと呼ぶ。
「えー、相変わらずです」と答えるとハマさんが、
「そうか。あの事故の時はさー、シューが死んだらトモちゃんをどうしたらいいか、って思ってさー」って言うもんだから、横でやり取りを聞いていた牛岡則夫さんがおもわず、
「そっちか」と大きな声を出した。