第17話 鶴と亀
夕方5時。建設組合の会議に出席するため、自宅の2階で妻の知美に着替えを出してもらっていると、ピンポ~ンと玄関でチャイムが鳴った。1階で、ハ~イどうぞとお袋の声がし、こんにちはと男の人の声が聞こえる。
「あ~、たぶん亀次郎さんがお義母さんに用事で来たんだ」
亀次郎さんは近所に住むおじいさんで、妻が言うには最近参議院議員選挙の事でちょくちょく来るらしい。お袋と会話をする亀次郎さんのはつらつとした声が階段をのぼって聞こえてくる。
「でも、亀次郎さんも元気だよね~。もう90歳だって」という妻の言葉に
「へ~、そんなになるんだ」と私はびっくりする。
1階から「じゃ~よろしく~」と亀次郎さんが言いながら玄関を閉める音が聞こえたので、私は窓から外に目を向けると、背筋を伸ばしスッスッと歩いていく亀次郎さんの後ろ姿が見えた。
「あ~、歩き方も若いわ」と感心しながら私がいうと、妻が
「ほら、亀は千年て言うし」
「なるほど、だから元気なんだ」妻もうまい事を言うなあ、と感心しながら「あれ?」ちょっとおかしいぞと気付き「亀は万年じゃなかったっけ?」と聞き返した。
「あ~そうそう。千年は鶴だった」妻は声を上げて笑いながら「まあ~どっちでもあんまり変わらないけど」という。
ここで私が、え~千年と万年じゃ10倍違うし、と言えば、うるさいわね~いちいち、と逆ギレされるのは火を見るよりも明らかなので、
「まあ~そうだね」と相槌を打った。