第14話 日本橋_後編
『日本橋麒麟像』まではすぐだった。妻はスマホを取り出し、写真を撮っている。道路を挟んだ向こう側にも同じ像が見えたが、『麒麟の翼』で青柳武明が最期にもたれかかったのは、確かこちらの像だ。
道路を渡って向こうも見るか妻に尋ねると、「どっちの麒麟も同じだろうからいいよ」と言うので、七福神を目指すことにした。上に目を向けると、朝通ってきた首都高速道路がすぐそこに見えた。
七福神巡りのスタートは小網神社からだ。ここからは、スマートフォンのナビゲーションシステムに活躍してもらわなければいけない。一応地図も印刷して持ってきたが、大体の方向しかわからない大雑把なものなので、これに頼るのは無理だ。
茶の木神社を参り、そして水天宮へと進む。階段をあがった屋上が境内だ。本殿でお参りをしたあと、娘夫婦に二人目の子どもが早く授かりますようにと『子宝いぬ』の頭をなでた。
妻は、「わたし、子どもいらないし、っていうか、もう子どもできないし」と笑いながら、頭をなでていた。
松島神社、末廣神社、笠間稲荷神社、椙森神社、寳田惠比寿神社と、七福神が祀られている八つの神社を参り終え、三越前駅から地下鉄で最後の目的地『東京スカイツリー』に向かった。
電車内は、修学旅行と思われる中学生で混んでいた。私たち同様、スカイツリーの見学に行くのだろう。終点の押上駅で電車を降り、外からスカイツリーを見上げた。
低い。これで、634メートルもあるのか。私が呟くと妻が横で「下から見上げるから高さがわからないのよ。少し離れて見ればいいかも」と言いながら歩きだす。振り返り振り返り歩くが、あまり変化がない。
しばらく歩いたところで、「ねー、疲れちゃったし喉乾いちゃった。あそこのコンビニでコーヒー飲もう」と妻が言い出した。
店内に入ると妻はコーヒーを注文し、私は「午後になったから午後の紅茶」と言いながら、冷蔵庫からペットボトルを持ってきてレジに置いた。コーヒーが入るまで雑誌でも見ようかと棚を見ると、エロいのが何冊か並んでいた。
『この娘が穿いたパンティー入り』と表紙に書かれた雑誌に目が行った。ちょうどパンティーが入るくらいの箱が雑誌に挟まっている。最近は雑誌の付録も変わったなぁ、と感心しながら手に取ったところで、妻がお待たせ-と言いながら横に来た。
「ちょっと、何見てるの。え~、穿いたパンティー?。ばっかじゃないの~。そんなのウソに決まってんじゃん」と呆れながら、テーブルと椅子が用意されたスペースに向かったので、私も後を追った。
三越前駅まで地下鉄に揺られる。本日の目的は、ほぼ達成した。あとは自宅まで無事帰るだけだ。駅を出て、もう一度『麒麟像』を見ながら歩を進める。
「今度来たら、何食べようかな~」妻の言葉に「えっ」と聞き返す。
「『海老のオムライス』食べてみたいな~」私は、昼に入った某洋食屋の事だなと、やっとわかった。
「となりのとなりのお客さんが食べていたカレーライスもいいよね~。おいしそうだったし。そういえば安かったし~」
「たぶん、もう(日本橋には)来ないと思うよ」
「あ、そういえば、ラーメンなんてあったよね~。洋食屋のラーメンって、どうよ」
「また(日本橋に)来たとしても、違う店に入ると思うし」
「夜だったら、2階でディナーもいいかも~」
「・・・」
そんな会話を(いや、妻が一方的に喋っていただけだが)交わしていると、駐車場に着いた。携帯に付録でついている万歩計を見ると、18,000歩を超えている。今日は一日よく歩いた。車のエンジンをかけ、走り出す。
「わたし、途中で、意識を失うかもしれないけど、シューちゃんお願いね」助手席で妻が眠そうに言った。私は「はいはい」と返事をしながら横に視線を移すと、すでに妻は「スースー」と気持ちよさそうに寝息をたてている。
私たちの車は、江戸橋から首都高速道路に乗り、麒麟像の上を走り抜けた。