第14話 日本橋_前編

   

「Dynamiteなhoneyでもいいんじゃない・・・」
妻の知美が、コンビニの駐車場に停めた車の助手席で、ペットボトル入りの緑茶を飲みながら、カーステレオから流れる曲に合わせて歌っている。

朝7時半。自宅を出て、高速のインターチェンジ手前にあるコンビニでお茶を買ったところだ。昨夜から降り続いている雨が、車のフロントガラスをこれみよがしに叩いている。

私は、いま買ってきた『午後の紅茶』のキャップを捻りながら、「朝から、午後の紅茶」と言ってみた。妻に聞こえたかどうかわからない。
「Dynamiteなbodyでもいいんじゃない・・・」と続きを歌っている。

東京に行こうと決めたのは、一昨日。目的は、皇居二重橋・日本橋麒麟像・東京スカイツリーの見学、日本橋七福神巡り、某洋食屋のハヤシライスなど。

きっかけは東野圭吾の小説で、映画やドラマにもなった『麒麟の翼』『新参者』『流星の絆』を妻が見て、「これ見たいね~」とか「ここお参りしたいね~」とか「これ食べたいね~」とか、言ったことだ。

じゃぁせっかくだから、まだ見たことがない皇居二重橋と東京スカイツリーも見学コースに入れようと私が提案し、今回の日帰り旅行のスタートとなった。

雨の高速道路を東京に向かって走る。首都高速を東銀座で降りる頃には雨はやんでいた。駐車場に車を入れ、時計を見ると10時半。二重橋を先に見るか、洋食屋が先か、少し悩むが、まず二重橋へ行くことに決めた。さぁ歩くぞ~。

東京は、暑い。雨上がりで湿度が高いせいか、より一層暑さを感じる。歩き始めるとすぐに体が汗ばんできた。20分ほどで二重橋が見える所にたどり着く。けっこう観光客がいるなぁと耳をすませば、聞こえてくるのは異国の言葉。ほとんどが外国人だ。

妻がスマートフォンで写真を撮り終えたので、次の目的地へ向かう。東京駅も初めてなので、赤レンガ造りの駅舎を見ながら(妻は写真を撮りながら)駅を抜け、12時ちょっと前に某洋食屋に到着。予想していた通り店内は満席で、外に15人ほどの客が列を作っていた。

ここでの目的は、ハヤシライスを食べることだ。実は私が暮らす地方には、ハヤシライスが食べられる洋食屋がない。私が知らないだけかもしれないが、そもそも洋食屋というものが、あまりない。

東野圭吾の『流星の絆』を読み、これは食べてみなければいけないと思い、かつ、どうせ食べるなら本格的なものを、とインターネットで調べ、ここに辿り着いたわけだ。

30分ほど待って、ようやく店内に案内された。私は『ハヤシライス』を注文し、妻はこの店で人気の『タンポポオムライス』を注文した。料理が来るまで、妻がスマホで撮った写真を見せてもらう。

二重橋、東京駅、一応撮れてはいる。何を撮ったのかもわかる。「ちゃんと撮れているでしょう」とニコニコしながら妻はいうが、う~んと唸らざるを得ない。私は、息子が言っていた「おふくろが撮った写真って、なんか変なんだよね」という言葉を思い出す。

スマホを返すと、妻は写真を見ながら「うまく撮れているじゃない」と満面の笑みを浮かべた。私はそれ以上何もいう事はなく、「そうだね」と微笑んだ。が、少し顔が引きつっていたかもしれない。

料理が運ばれてきた。最初お互いに少しずつ食べてみようと決めていたので、まずハヤシライスをスプーンで一口ずつ食べた。初めての味に戸惑いながら、二口三口と食べ進めると、徐々に美味さがわかってきて、うまいな~と、自然に言葉が出てくる。

タンポポオムライスも同じように口に運ぶ。これもうまい。隣のテーブルから「卵、何個使っているんだろう」と聞こえてきた。見るとタンポポオムライスを食べている。確かにボリュームはかなりある。

妻はタンポポオムライスを食べきる事ができず、私がハヤシライスを食べきるのを見計らって、これも食べて、と残りを差し出してきた。私も年を重ねるにつれ、食べられる量は減ってきているのだが、味付けが濃くないので、何とか食べきる事が出来た。

会計を済ませ外に出ると、依然として10人ぐらいが列を作っていた。さぁ午後も歩くぞ~と自分に気合いを入れる。妻は「今度来たら何食べようかな~」と楽しそうだ。

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